赤い蝋燭と人魚



上演時間目安:30分程度

登場人物…1.おばあさん
       2.おじいさん
       3.女


舞台は蝋燭を売る店。客席から見て右側が戸。左が店兼、部屋になっていて、畳の上に布団がしいてあり、おばあさんとおじいさんが寝ている。時は真夜中。灯りは薄暗く月明かりのみ。トントンと戸を叩く音。おばあさん、上半身だけ起こす。

おばあさん/どなた?

返事はない。またトン、トン、と戸を叩く音がする。おばあさん起きて軽く身支度を整え、戸に近づき細く戸を開ける。

おばあさん/おやおや、まあまあ、なんですね。こんな真夜中に。
女/(姿は見えず、声のみ)すいません、すいません、蝋燭を下さい。
おばあさん/はい、はい、はい。ちょっとお待ち下さい。(振り返り)おじいさんや、起きて下さいよ。お客さんですよ。

おじいさん、おばあさんの声に起きて、もそもそと布団を片付ける。おばあさん、女を店の中に招き入れる。女、登場。おばあさん燭台に火をつける。舞台明るくなる。

おじいさん/まあまあよくいらっしゃいました。

おじいさん、女を座らせる。その間におばあさん奥で何やらもぞもぞ探している。

おじいさん(愛想笑い)今夜は本当、波も穏やかで。
女/(舞台後ろ、ふすまに映る月に目をやり)ええ、いいお月さまですね。
おばあさん/(奥で何か探しながら)おじいさん、蝋燭はどこにしまいましたかね。
おじいさん/右の引き出しにはないかね。
おばあさん/ないようですよ。
おじいさん/ええい、もう、ちゃんとしまっておけとあれほど言うてるに。…(女に向かって)今夜はお参りですか?

女/はい、この山の上のお宮にお参りに行く時は、ふもとのお店の蝋燭を買うといいと人づてに聞きまして。
おじいさん/いやはや、これは、どうもどうも。…しかし、こんな遅くにお一人で?

そこにちょうどおばあさんが奥から蝋燭の入った箱を持ってやってくる。

おばあさん/もう、ありましたよう。左下の引き出しじゃあないですか。
おじいさん/はて?そうだったかね。
おばあさん/どれに致しますかね。(箱から数本取り出して見せる)売れ残りですが悪いものじゃないですよ。

女、箱の中の蝋燭を数本手にとってみる。その中に赤い蝋燭を見つけ、手に取る。女、それにじっと見入る。

女/これは…。
おばあさん/ああ、お止めなさいな、それは。おじいさんが作る時、失敗してしまったんですよ。お恥ずかしい。(箱から別の蝋燭を取り出して見せる)こっちはどうでしょう。ね。まっすぐで、形も綺麗ですよ。

女、おばあさんの話には耳を貸さず、蝋燭をじっと見ている。

おばあさん/さぁ、ね、(また別の蝋燭を取り出す)こっちはどうですね。形は劣るけれど、他のより 大分太くて長いからきっと長持ちしますよ。ね。

女、ずっと赤い蝋燭を見ていた顔を上げ、おばあさんの方を見る。

女/こちらの蝋燭は。
おばあさん/え。
女/こちらの蝋燭は売って頂けないんですか?
おばあさん/ええ?
女/売って頂けないんですか?
おばあさん/そんなことはないけれど…(とおじいさんの方を見る)
おじいさん/いいじゃないかね。売ってあげたら。お客さんが欲しいと言うんだ。
おばあさん/でも、おじいさん、私ぁ気味が悪くって。こんなもの、お客さんに売るようなもんじゃないですよ。
女/気味が悪い?

おじいさんとおばあさん、気まずそうに目を合わす。

おじいさん/…あなた、この蝋燭はねぇ、人間が作ったのではないですよ。
女/え。人間が作ったものではない?
おじいさん/いやいや、作ったのは確かにこのわしですが、その、ほれ、赤い蝋燭。それを絵の具で赤く塗ったのは、実は人間ではないんです。
おばあさん/ちょっとおじいさん。
おじいさん/いいではないか。今更、隠すことでもないだろう。
女/人でなければ、誰が塗りましたのですか?魚のヒレでは絵筆も持てませんでしょう?
おじいさん/もちろん、そうです、そうですとも。人が塗ったものではないが、魚が塗ったものでもありません。…これを塗ったのは人魚です。
女/人魚?
おばあさん/嫌ですよ、おじいさん。そんなこと言ったって、呆けた爺さんのたわごとだと笑われるだけですよ。お止しなさいったら。
女/いいえ、ぜひお聞かせ下さいませ。
おばあさん/あら、嫌だ。あなたまでそんなからかって。
女/お願い致します。

女、軽く頭を下げる。おばあさん、困ったように隣のおじいさんを見る。おじいさんうなづく。おばあさん渋々話し出す。

おばあさん/…あの子を拾ったのは、こんなちょうど穏やかな月の晩でした。

障子の向こうに映る月、波の音が聞こえてくる。

おばあさん/あの晩、私はおじいさんと話し合って、山の上のお宮にお参りに行きました。波の静かな、綺麗な満月の晩でした。帰り道、あのお宮の石段を降りる途中、月の光が石段の上の、何かを照らしました。抱き上げると、それはまだ乳離れをしたばかりの、小さな女の赤ん坊でした。私はその子を寒くないよう、懐に抱えると急いで家へと帰りました。

ゆっくりと暗転。明転。店側の方におじいさんが座って蝋燭を作っている。そこに扉をあけておばあさんが帰ってくる。

おじいさん/おお、お帰り。早かったじゃないか。
おばあさん/おじいさん、おじいさん(手招き)
おじいさん/ん〜?なんだねぇ。ほら。

おじいさん、おばあさんの方へと立ち上がり近づく。おばあさん、懐の赤ん坊を取り出す。

おじいさん/(驚いて)お前…。
おばあさん/可愛そうに、石段のところに捨てられていたんですよ。お参りの帰りに気が付いて…。
おじいさん/(赤ん坊を覗きこむ)まだ、こんなに小さい…乳離れをしたばかりじゃないか。可愛そうになぁ。(赤ん坊に笑いかける)おーよしよしよし。

二人でしばらく、赤ん坊をあやしている。おばあさん、ふと顔を上げ、おじいさんの方をみる。

おばあさん/おじいさん…この子、うちで育てませんか?
おじいさん/(おばあさんの方を見る)
おばあさん/お参りの帰りにこの子を見つけるなんて…なんだか不思議だと思いませんか?このまま見捨てていっては、きっと神様のばちが当たります。私達夫婦に子供がないのを知って、神様がこの子をお授けになったに違いありませんよ。
おじいさん/(おばあさんの言葉にうなづく)そうだ。正にこの子は神様のお授け子に違いない。大事に育てなければ罰が当たる。

おじいさんとおばさん、目を合わせ笑う。とその時赤ん坊が泣き出す。おばあさん、慌てて赤ん坊をよしよしとあやす。赤ん坊泣き止まない。
おばあさん/おーどうしたどうした。おむつですかね。

おばあさん、赤ん坊を包んでいた布をめくる。驚く二人。(客席には赤ん坊の下半身がはっきり見えないように)
おばあさん/(驚いて)おじいさん、この子…
おじいさん/うろこ…それに尾ひれが…?

おじいさんとおばあさん、二人で顔を見合わせる。しばし沈黙。やがておじいさんが口を開く。

おじいさん/この子は人間じゃあないが…(おばあさんの方を見る)
おばあさん/(うなづく)私もそう思います。(赤ん坊を覗きこみ微笑む)しかし、人間の子でなくとも、なんてかわいらしい顔の女の子ではありませんか。
おじいさん/いいとも、なんでもかまわない。神様のお授けなさった子供だから大事に育てよう。きっと大きくなったら、りこうな、いい子になるに違いない。

おばあさん、おじいさんにうなづいて腕の中の赤ん坊を見る。おじいさんも赤ん坊の顔をのぞきこむ。二人で赤ん坊をあやしている。暗転。
明転。店の中、おじいさんとおばあさんと女。位置は暗転前と同じ。

女/それで、それから、その女の子はどうなったのでございますか?
おじいさん/…その子は日に日に大きくなり、やがて黒目がちで、美しい髪の毛の、うす紅の肌をした美しい娘に育ちました。
おばあさん/でもあの姿ですからねぇ。恥ずかしがって外へ顔を出すことはありませんでした。
おじいさん/そのうちに私の仕事を手伝うようになりましてね。ある日、蝋燭を作っている時にあの子が「蝋燭に絵を書いたらどうでしょう」と言うんですよ。綺麗な絵を蝋燭に書いて売ったら、きっと皆が喜んで買うだろう、とね。そんなら、お前が好きな絵を試しに描いてみるがいい、と言って描かせたら、これが…
おばあさん/貝に魚に、真珠や海草、とにかく海のものばかり。赤い絵の具で白い蝋燭に丁寧に描くのですよ。誰に習ったわけでもないのに、それはそれは上手なもので。
女/あら、まぁ。それは。
おじいさん/上手いはずです。人間ではない、人魚が描いたものですから。
おばあさん/それからあの子が描いた蝋燭はとぶように売れました。朝から晩まで「絵を描いた蝋燭をおくれ」と言って、子供から大人まで店先に買いに来ました。…そのうちに奇妙なことが言われるようになりました。
女/奇妙なこと?
おばあさん/あの子の描いた蝋燭を、山の上のお宮にあげて、その燃えさしを身につけて、海に出るとどんな大暴風雨の日でも、決して船が転覆したり、溺れて死ぬようなことがないと、そういうのですよ。
おじいさん/もともと海の神様を祭ったお宮ですからね、「綺麗な蝋燭をあげれば、神様もお喜びなさるのだろう」と評判になりまして。遠くの村々から、船乗りや漁師が蝋燭を神様にあげたその燃えさしを手に入れたいと、ひっきりなしにやってきては、お宮に参詣して蝋燭を捧げていくものですから、夜も昼もお宮に蝋燭の火が絶えたことはありません。特に夜はちらちらと海の上からもお宮の灯火が覗えたものです。
女/それはまぁ、さぞかし美しい景色でしょうね。

おじいさん、うなづきながら力なく笑う。

おじいさん/…しかし、あんまり蝋燭が売れるものですから、朝から晩まで私は蝋燭作りで…いやはや。
おばあさん/(笑って)仕事があるだけいいじゃありませんかねぇ。全く、この人は。

おじいさんとおばあさん笑う。女一人だけちょっと神妙な面持ち。

女/ではその子も…。
おじいさん/え?ええ、私が蝋燭を作る横で、赤い絵の具で一所懸命に蝋燭に絵を描いておりました。

女、話を聞いて辛そうな顔。

女/それは…その子も大変でしたでしょうに…。
おばあさん/いいんですよ。「こんな人間並でない自分を育ててくだすったご恩をやっと返すことができる」って泣いて喜んでいたんですからね。
女/………あの、それで今、その子は…?

おじいさんとおばあさん、顔を見合わせる。

おじいさん/…ある時、南の方の国から香具師がやって参りましてね。どこから聞きつけたものか、またいつ娘の姿を見て、あれが人間ではない、珍しい人魚だと見抜いたのか…とにかく、私どものところにやってきまして、「大金を出すから、その人魚を譲ってくれないか」とこう申すのですよ。
女/まあ!
おばあさん/もちろん、私達はすぐに断りました。「この娘は、神様がお授けになったのだから、どうして売ることができましょうか。そんなことをしたら罰が当たります。」と。けれど何度断っても香具師はこりずにやってきました。…そしたら、なんとまぁ、香具師が申すところによれば、人魚は不吉なものだというじゃありませんか。私は途端に恐ろしくなりましたよ。今のうちに手放さないと、悪いことが起こる、そう香具師が申すものですから…。
女/香具師に売ったのですか?その子を!?

女の剣幕に二人、一瞬たじろぐ。二人顔を見合わせてぼそぼそと。

おばあさん/そうは言いましても…ねぇ…。香具師の言うことももっともだと思いましたので…。
女/(うってかわって静かに)朝から晩まで、手が痛くなるのも構わず、あなた方のために蝋燭に絵を描き続けた娘をあなたがたは…。

女、下を向いて黙り込む。おじいさんとおばあさん、困ったように顔を見合わせる。女下を向いたまま、目元を袖で拭う。

おじいさん/…泣いているのですか?
女/…可哀相で…その娘が一体どんな気持ちで幾百里も離れた遠い、知らない南の国へ売られていったのかと思うと…母親の人魚がどんな想いで我が子を陸に産み落としたのかと考えると……身も引き千切られるようです…。
おばあさん/人魚に母親!ほ!

おばあさん、女の言葉を聞いてほほほほと笑い出す。おじいさん、それを見てたしなめる。

おじいさん/これお前、お客さんに失礼でないかね。
おばあさん/だっておじいさん、おかしくて…。(笑う)人魚は海のあぶくから産まれて、あぶくへ帰っていくただの化け物じゃありませんか。それをこの人、「人魚に母親」だなんて…(笑う)

笑い続けるおばあさんにおじいさんは困った顔。女は気にせず手元の蝋燭をじっと見つめていたが、ふと顔をあげる。

女/では、この蝋燭は…。
おじいさん/ああ、それはあの子が最後に塗っていたものです。手元が狂ったのか、全部赤く塗ってしまったようで。
おばあさん/全くねぇ。蝋燭一本作るのだって、そう楽ではないのに。こんな真っ赤に塗ってしまってはもう売り物にはなりませんよ。
女/…この蝋燭はお幾らですか?
おばあさん/あら、あなた。まだそんなことを…。
女/お幾らですか?

おばあさん、女の異様な気迫に一瞬圧される。がすぐにいやらしい笑いを浮かべる。

おばあさん/そうですね…失敗品でも、他の蝋燭より絵具を多く使ってるんですよ。…だから少々お高くなってしまうんですが…。
おじいさん/(驚いて)これお前。
女/(おじいさんの台詞に被さるように)お幾らになりますか。
おばあさん/そうですね。十銭でいかがでしょう。

女、おばあさんの言葉に懐からお金を取り出し、おばあさんに渡す。

おばあさん/はい、どうも。
女/(お辞儀をする)では長くなりまして…失礼致します。

女、そのまま舞台から退場。おばあさん、ぺこぺこと愛想笑いを浮かべお辞儀。

おばあさん/はいはい、またいつでもどうぞ。

おばあさん、しばらく女を見送っているが、女が行ったのを確認すると、ひっひっひと妖しげな笑い声を上げる。おじいさん、それにしかめ面。

おじいさん/これ、お前。
おばあさん/なんですか(また笑い声)
おじいさん/どうするつもりだね。五銭もしない蝋燭を十銭で売りつけたりして。ばちが当たるよ。
おばあさん/なんでばちが当たりますか。あの人が蝋燭を欲しがってたのを、私はちゃんと売ってあげたじゃありませんか。

おじいさん、ため息。おばあさん、手の中のお金を確認しようと灯りの元に行こうと立ち上がるが、ふと女のいた場所を見て、声を上げる。

おばあさん/いや!誰ですか!こんなところに水をこぼしたのは!
おじいさん/なんじゃ、お前は本当に騒がしいな。どれ、どうした。

おじいさん、おばあさんのいっているところを見る。

おじいさん/ありゃ!これはひどい。びしょ濡れではないか。
おばあさん/(おじいさんを睨む)また、あなたは。お茶を飲みながら歩かないで下さい、とあれだけ言ってるじゃありませんか。
おじいさん/私じゃない!
おばあさん/全くもう…。

おばあさん、ブツブツ文句を言いながら、雑巾を取りに行き、雑巾をおじいさんに渡す。
おじいさん、「だから私ではないというに…」などと文句を言いつつ、そこを拭く。
その間におばあさん灯火のところに行き、お金を確認する。

おばあさん/はぁ、やっとねぇ…どれどれ…(小声で色々呟きながら、手のひらのお金を灯火にかざす。)あらやだ!おじいさん!
おじいさん/(雑巾で床を拭いてるところに怒って振り返る)なんだな!もう!
おばあさん/ちょっと見て下さいよ!

おばあさんに呼ばれ、おじいさんぶつぶつ文句を言いつつ立ち上がり、おばあさんの方へ行く。

おばあさん/ほら。
おじいさん/ありゃ、(おばあさんの手のひらのものを手に取る)これは貝じゃないか。
おばあさん/(怒って)何が「お幾らですか?」だね!初めから払う気なんぞなかったんじゃないか!
(おばあさん、女が出ていった戸の方をじっと見つめる)まだ追いかければ、間に合うかもしれない。
おじいさん/おい!お前!

おじいさんが止める暇もなく、おばあさん女を追いかけて出て行く。

おじいさん/まったく…(ため息)…しかし、不思議な女だったの…。どことなく、あの子に似ているようで…。今頃、あの子は南へ行く船の上か…。

おじいさんが独り言を言ってるうちに、おばあさんが息を切らせて戻ってくる。

おじいさん/早かったのう。
おばあさん/もう駄目ですよ。姿形も見えやしない。
おじいさん/もういいじゃないか。最初に騙したのはこっちなんだから。
おばあさん/ああ、もう悔しいったら。
おじいさん/それよりもう寝よう。年寄りに夜更かしは毒だよ。

おばあさん、ぶつぶつと文句を言いつつ、布団に入る。おじいさんも灯火を消し、寝る。
舞台照明、やや暗くなって、しばらく沈黙。風の音が聞こえてきて、それが次第に強くなっていく。

おばあさん/今夜は海の方は大分、風が強いみたいですね。
おじいさん/本当だ。この調子じゃ、沖の方は随分荒れとるだろうな。

風の音、どんどん強くなっていく。もう暴風雨といった感じ。

おばあさん/おじいさん。
おじいさん/(風の音でおばあさんの声が聞こえない)あー?
おばあさん/(おじいさんに聞こえるように大声で)これじゃあ、あの子の船も一溜まりもありませんね。
おじいさん/(やはり大声で)そうだな。

舞台、暗転して無音になる。ぼそりとおじいさんの呟きが入る。

おじいさん/この家は大丈夫じゃろうか?

舞台中央にスポットライト。女が立っている。

女/それから夜が明けると、沖は真っ暗で、ものすごい景色でありました。その夜、難破をした船は数えきれないほどであります。
不思議なことには、その後、赤い蝋燭がお宮に点った晩には、それまでどんなに天気が良くても、たちまち大嵐となりました。
それから、赤い蝋燭は不吉ということになり、蝋燭屋の年寄り夫婦は、神様のばちが当たったのだといって、それきり蝋燭屋を止めてしまいました。
しかし、どこからともなく、一体誰が、お宮にあげるものか、度々あの赤い蝋燭が山の上のお宮に点りました。
昔、その燃えさしさえ持っていれば、海の災難にかからないといわれた赤い蝋燭は、今ではその灯火を見ただけでも、災難にかかって海で溺れ死ぬと言われました。
そうなるともう誰もそのお宮にお参りに行く者はなくなってしまいました。
ある者は真っ暗な星も見えない、雨の降る夜に、波の上から、赤い蝋燭の灯が、漂って、だんだん高く登って、いつしか山の上のお宮をさして、ちらちらと動いていくのを見たといいます。やがて幾年 もたたずして、そのふもとの町はほろびて滅くなってしまったということです。

暗転して幕。


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